その天体の名
青の詩人





月を見ていたら
涙も
涙まじりの鼻水も
潮の味がしたから
海で生まれたこと思い出した


風は漣
木の葉は波音
空は海原
雲は島
月は
ぼくらを導く灯だ


ぼくはウミガメとして
あの光まで泳ぎきろうと
泳ぎきろうと
前足も後ろ足も必死でバタつかせた
けれど
少し遠すぎたようです

やがてやってきた
天使の羽雲が
少しずつ少しずつ
あなたを隠して
知らない場所に連れ去った


もう会えないと思った
次に会うときはきっと
違う星になっているから

ぼくが月と呼んだその天体は
いつか別の誰かにルナと呼ばれ
知らない顔で笑うんだろう
知らない顔で泣くんだろう
ぼくには見せなかった
背中に隠した凸凹を
その誰かには見せて 

あれ
なんでだろ
なんで今夜は
こんなにも波が
しょっぱい

あふれるのは
引力のせい


強く惹かれると
こぼれるから 


そろそろ陸にあがろう
卵も 思想も
産めやしないけど
もう疲れたんだ

忘れよう


そしてぼくは
カメになった
泳ぎ方を忘れて
閉じこもることだけ
覚えて



それを見ていたら
なぜだか泣いていた
海で生まれたこと
そんな季節があったこと
思い出した
名前はもう思い出せないけど
すごく暖かい光だった


綺麗――。








あれ

なんでだろ


自由詩 その天体の名 Copyright 青の詩人 2008-08-04 23:58:58
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