[夕立]
東雲 李葉

夕立が来るというから髪を切りに行くのを止めた。
予約の電話もしてないから混んだら時間もかかるだろう。
貴重な休みなのだから出来るだけ有効に使いたいのに。
こうなるともう向かいのスーパーに行くことさえ億劫だ。
一週間も前から組んでいた分単位の予定が崩れていく。
もういいや寝てしまおうったって力を込めても目蓋は軽い。


ああ、ついに降りだした。


裏の公園からは雷に脅かされた子供らの声。
私は狭い窓から他人事のような雨を見上げる。
朝のニュースも昼頃浮いてた積乱雲もこうなることを告げていたのに、
傘も持たず駆けてた子らが羨ましくもあり嫉ましくもあり。
枝毛だらけの髪をひっつめ聴き飽きたアルバムに耳を傾ける。


雷はまだ止みそうにない。
雨はどんどん激しくなる。


光った後に鳴る音の速さで雷の近さが分かるという。
懐かしい小学校の理科の教科書。リトマス試験紙や石灰水とか、
テストの度に書いて読んで覚えたのに今じゃどこにも使わない。
酸性雨なんてこの近くにいないし二酸化炭素は言わずもがな地球の敵。
テレビが言うことは概ね正しい。
正しいと信じてしまえば事実がどうあれそれは「正しい」


やがてアルバムは終わり私は一つも歌を口ずさまなかったことに気付く。


歯車が狂ってしまった以上今日はもう正常に動けそうもない。
夕飯は冷凍室の残飯処理に終わるだろう。
ビデオを借りに行くのも髪がだらしないからやめてしまおう。
どうせだらしないなら今日は風呂に入るのもやめてしまおう。
ならば明日の用意も明日の私に任せてしまおう。
そうしてもう一度、コンポのリモコンに指をあて、
眠れないと分かっていながらまだ歌詞を覚え切れない歌を聴いていた。


実は夕立はとうに止んでいたのだが私は何もしない言い訳が欲しかったのだ。


自由詩 [夕立] Copyright 東雲 李葉 2008-08-04 17:34:55
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