ONE NIGHT DOPE
エヌジーマ

シャンプーが残り少ない。
ヘッドをプッシュしても「プスープスー」と
湿った空気音が閉ざされた浴室内にリバープをかけて虚しくこだますだけだった。
俺はしかたなくいつもの倍以上の時間を費やして
ワックスまみれの泡だたない頭をゴシゴシと掻き毟るかのように洗った。
背の低いプラスチック製のレモン色のイスにまたがり、
身体をまるで外敵から身を守る為に丸く固まったダンゴ虫のように前かがみに丸くなり、強く目をつぶりながらMIC JACK PRODUCTIONのパンチラインを口ずさんだ。
タイル張りの床に弾かれたシャワーのしぶき音が俺の言葉を掻き消す。
決して交わらず平行線を辿る双方の旋律、
それはまるで水と油、プラスとマイナス、S極とN極、光と影、陰と陽、戦争と平和、そして俺とオマエ。 全ての敵対する過酷な最前線の緊張感にも匹敵する関係だ。
 時間がない。 俺は眠りにつくまでの限られた時間を有効利用することに
苦手意識を持ち始めている。手持ちぶたさでつけたTVからはファシズムなコメントし聞こえてこない・・・。
濡れた髪を拭き取る純白のタオルは次第に水分を含み冷たく重くなっていく。
ドライヤーは別れた彼女の部屋に置いてきた為タオルドライを余儀なくされていた。
髪の芯は一向に乾かない。表面がカサカサになったパーマヘアーは水分を欲している。
俺はブラックコーヒーを口に含みそれを一気に流し込み
体内から水分を与えることにした。
部屋の中央でアグラをかいている俺と、部屋の隅で小さく丸まって湿ったままのタオル。
ただ漠然と時を刻む秒針。俺を取り巻く環境は依然何も変わらない。
ネガティブな空気と半開きの口。 きっと明日には何かが変わっているはず。
そんなことを思いながら眠りに就く毎日は、鎖に繋がれた囚人とたいして変わらないだろう。
直面する問題に問い詰める「なぜ邪魔をする?」 沈黙の末答えは返ってこない。
今度は自分自身に問い詰める「なぜだい?」
主語も述語もない軽薄な問いかけに自分自身の無知さに苛立ちをおぼえた。AM1:38睡魔に襲われた。
始まりから終わり、そして終わりから始まり。永遠に繰り返される循環、
出口はもうすぐそこまできてる。非日常的な場面に花束を贈り、
俺はまずドアーを開けてシャンプーを買いに行くことにする。



自由詩 ONE NIGHT DOPE Copyright エヌジーマ 2008-08-03 19:10:56
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