裁き
1486 106

あの人は罪を犯した
平和で満ち溢れていた町で
私はなんの前ぶれもなく
大切なものを失ってしまった

拘置所で犯人の顔を見た
まったく見覚えのない人だった
町の人たちも誰一人
あの人を覚えている人はいなかった

この町のルールに従って
被害者が裁きを下すことになる
だからこの町に犯罪はなかった
死刑になってまで犯罪を犯そうとは考えなかった


今までは


町の人達は一斉に叫んだ
「殺せ!奴を殺してしまえ!」
私はその時恐ろしくなったんだ
こういう気持ちが犯罪を生み出すと

あの人は罪を犯した
平和で満ち溢れていた町で
もしかしたらあの人だけが
この町の真の姿を見たのかもしれない



本当は誰も裁くことは出来ない
私にも 法律にも 神様にも
だけど裁かないといけない
私のために 世界のために あの人のために

論理だけでは見落としてしまう
感情だけでは見逃してしまう
中立な姿勢で見極めないといけない
それが裁く者のルールと責任

眠れずにずっと考えていた
私にとっての長い夜
あの人にとっての長い夜
やがて導き出した一つの結論で
朝を取り戻すことが出来るだろうか



「被告人に裁きを下す
 私が許せるようになるまで
 刑務所の中で心を入れ替えるくらい働きなさい」

命は命では償えないから
生きることのほうがずっと罰だから


自由詩 裁き Copyright 1486 106 2008-08-01 00:08:38
notebook Home 戻る