ひとしずく
士狼(銀)


オーデュボンの目が映した、まるで日食のように昼間を暗くするリョコウバトのその大群にも、最後の一羽にも、わたしはもう二度と会えない。
会えない。

減少する熱帯雨林の隅のほうで誰の記憶にもどの記録にも残らず消えていく生物。名前がないということは、それはもしかしたら幸せなことに繋がったのかもしれない。
けれどどこにも繋がらないまま、どんなに足掻いても、
もう二度と会えないものたち。

走る列車からバイソンを撃ち殺すスポーツが屍ばかりを残して去っていった。
バイソンの頭骨が積み上げられた山で笑う記念撮影。白黒写真に映える、
骨の白さ。

人が殺して、
それでも人にしか、
救えない。

正義



 「なぞなぞを出そう
  ウニや貝を食べるラッコが漁業に被害を与えるとして
  漁業高を上げるためにラッコを殺したんだ
  けれど漁業高は下がる一方だった


  なぜって
  ウニが小さな生物を守るコンブの森林を食べてしまったからだ
  住処を奪われた小さな魚たちは
  みな違う場所へ行ってしまった


  ほんとうは不必要な命なんて
  
  どこにもないんだ」

 
日本のオオカミは殺された。太古の大いなる神は、最後の一匹が標本になって消え失せた。神聖で可愛いシカたちはいつしか害獣とされ始めた。森林の植生にとっても生態系にとっても害獣になった。
誰かがオオカミにならなくちゃいけない。
いけない。


生きていくためのブッシュミートを責められない。ぬくぬくと生きているわたしは、


人が殺して、
それでも人にしか、
救えない。


人はパーツ毎に見れば最も弱い動物で、目も耳も力も、速さも。だから考える。考えて、武器を作る。戦う。殺す。誇示する。頂上にいるのだと思う。考えて、機械を作る。革命。破壊。考えて、

だから、考えて、

人が奪ったものは人にしか救えない。


自由詩 ひとしずく Copyright 士狼(銀) 2008-07-29 17:34:03
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