「カエサルの月」
高槻 空


ゆきすぎた夏のよこがおを
どうしても思い出せない
急行に揺られて
日よけを半分だけ降ろす

だれもいない改札で
追いかける風は
やさしいだれかと
海のにおいがして
すれ違う夏のよこがお の
むこうの陽ざしがまぶしい

  夏休み前日の放課後だった
  だれもいない音楽室で
  あなたは無作為な曲を弾いた
  見えない譜面に音符が並ぶと
  どうしようもなく涙が出た
  抽象、と
  難しいことばを使ったあなたが
  照れたように笑って、ふたり
  汗をかいたまま夕陽を眺めて
  海の夢を彩った

  それから
  ピアノのような横断歩道の黒白を
  上手に鳴らしていけないまま
  七月の夜を
  ひとりでぼんやりと歩いて帰った

コバルト
砂浜には無数のらくがきと足あと
ひとつくらいありそうな
本物を探す、2008 JULY

あれから
ひとりで歩きはじめた
あなたの指
遠くなる放課後
鍵盤にしたように すなのうえに
さみしい、と
綴ったのだろうか





自由詩 「カエサルの月」 Copyright 高槻 空 2008-07-28 22:20:23
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