妊婦のロボ子さん
木屋 亞万
表情がない女性だった
人よりも植物に近い
南国よりも北国の植物
針葉樹のような鋭さはなくて
維管束には冷たい水分
いや維管束すらあるかわからない
造花のような表情をしていた
これ生きてる?と子どもが尋ねても
親が答えに迷ってしまような
そんな彼女はいつしかロボ子さんと
呼ばれるようになって
それも子どもがからかい半分で
言い出したような気がするのだけれど
彼女の青白い肌に赤みがさして
少し春を感じられるようになった
私が北海道の桜を思い出したのは
相変わらず表情が凍っていたからだろうか
幸せな気団に包まれているようだった
彼女を涼しげな女性と感じた男どもが
ロボ子さんに次々と恋し始めた
男どもの青い春の散る時期が
想像していたよりも早く来て
花曇りの男どもの中で
彼女だけが浮き立つように
桜色の頬をしてやはり無表情
喜びを表現するように
お腹が膨らみ始めて
ロボ子さんが妊娠しているとわかった
子どもの父親は誰なのか
誰ひとり知る者はいない
彼女も誰にも言わなかった
ただ幸せそうな声で
私、この子を産むときに死んでしまうんですよ
と言った
ロボ子さんは陣痛のときに
苦しそうな顔をするのだろうか
ロボ子さんは赤ん坊を産んだ瞬間
どのような顔をするのだろう
彼女の笑った顔を見たい
顔色の悪い青年が
花の散るようにつぶやいた