娘髪結
佐々宝砂

お縄にかけられた女の姿を思いだし
娘は静かに下唇を吸った。

宿下がりのたびにあのおぐしを勝山に結うたはわたし。
江島どの、
かほどにあの男が愛おしうござりましたか。
さればわたしも。
もうあのおぐしに触れること叶わぬならば。

幾重にも閉ざされた襖の深奥。
みしり、ぎしり、と欄間がたわみ、
娘の身体は力なくたらりとぶらさがる。

正徳四年。
かつての大奥惣女中筆頭江島は、
役者生島との情交ゆえ処罰され、
それから三十年余りを高遠の地にすごした。

自害した髪結いの娘のことなど、
微塵も思い出さぬままに。





自由詩 娘髪結 Copyright 佐々宝砂 2008-07-25 22:47:52縦
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