ひとつなぎ凪ぐ夏
紺野 夏槻




波の匂いがする。

まぼろしはわたしをさらうことはしない。

やさしさという風が、角のコンビニエンスストアに入っていった。思わず後を追う。ああ、ここにはいつも、誰かがいる。自動ドアが開くと、やさしさと夏がひといきに押しかけてきた。見えない足で列をなすそれらは、レジで細かく切り分けられる。そうして客のビニール袋に一つずつ収まると、それぞれの形でまた自動ドアをくぐっていく。私には何も買うものがなかった。

横断歩道の白黒が眩しい。今日から夏休みだ。きっとひとりで、贅沢に時をもてあますのだろう。私はそんな生き方を選択した。あの「ひとが、私の選べなかった生き方をしている。その背中を蹴飛ばしたい。私の影なのだろう、それは。

街の匂いがする。

そらはわたしを、のみこむことはしない。



自由詩 ひとつなぎ凪ぐ夏 Copyright 紺野 夏槻 2008-07-23 19:58:52
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