そしてシグナルタワー、女子
しもつき七




排他的な女の子は空を所持している。
その底のほうには、白くてきれいな宇宙船や、手垢できたない算数の教科書、軍隊の格好をしたキューピー人形や、プラスチックのマニキュアの瓶が、ざくざくとはめられている。


何百年か前、とても優秀だったパイロットが操縦するエスカレータで、なだらかに街をくだっていく。ひどく静かな通路には、電気くらげが点々と吊るされていて明るい。


豆電球がきえるとしんでしまう人たちは、コードのようなものでおぎなえるだけ存在している。きしょくわるいカラフルな配線を、ふくらはぎのコンセントにつないだ男の子が、びしりと両手をあげて、横断歩道をわたっている。



地下室にあるプラットフォームに漂着する。
回送の電車をぜんぶ、赤くぬりかえる。ペンキくさい体で飛び込もうとしたら、どこからかざわざわと動物がやってきて、すっかり女の子をかこんでしまった。(羊のお腹はあったかい。このふくらんだり、ちぢこまったりする呼吸のなかには、体温が入っているんだろうか。解剖したい。)少女っぽい感じのチューンが、発車ベルのかわりに流れつづけている。



女の子のハイヒールが、かっとう、かっとう、とないている。皮を剥いた果物みたいなくるぶし。



薬品のにおいのするレントゲン室に、三月と六月をつれてきて、こわれた光のぶんだけ、暗転させてみたい。どうにか人のかたちをしているそれらの、うつくしいあばら骨。(そのなかで一番好きなのを、ぬきとって捨てるんだ。持ち重りのしそうなそれにも、たしかに血液が回るのかどうか。)


産まれたときから女だけれど、子宮はまだ欲しくない。



せまい公園の空に、はいりこめなかった夕方がぼたぼたと滴り、飴だまになって降ってくる。かくれんぼをしていた大人たちが、すべりだいの階段から、ぶらんこのゆれぎわから、わあっ、と駆けてきて、いっせいにスカートをひろげた。水たま、縦縞、花柄。傘の模様のような布を観察する女の子だけが、そのなかでやっと一つ、ハリボテではなかった。


おちてきてしまった人工衛星をひろう。機械によって点滅している。ハイテク、とつぶやいて、女の子はきれいな部分から、解体をはじめた。



自由詩 そしてシグナルタワー、女子 Copyright しもつき七 2008-07-22 23:09:21
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