迷い森
木屋 亞万

部長は激怒した
書類の誤植が見つかったからだ
大森専務が大林専務になっていた
すぐに部長は平社員の小林を叱りつけた
小林は木を一本加えて
森にして書類を作り直した

誤植を直すためには
木を植え替えねばならなかったのだが
新たに木を輸入してくることは
輸送経費的にも環境負荷的にも
よろしくない状況にあった
迷いに迷った挙句
小林平社員は小木平社員になった
大森専務は無事に大林から大森になった

しかし部長の怒りは収まらなかった
森を表すのに木3本で足りる訳なかろう
もっと大森専務の人望を表すようなものにしなさい
たくさんの木が集まって始めて森だろうが
と小林改め小木平社員を罵った

仕方なく小木平社員改め小平社員は
書類上の木という木を集め
専務の辺りに盛っていった
杉田は彡田になって結果的に三田になった
秋山さんは火山に
樋口先輩は通口に
山本係長は山一係長に
次々と名前から木を移植し
書類上のすべての木を集めて
森専務のところへと植樹していった



結果的に
     木 
     木木  
    木木木  
    木木木木
   木木木木木
  木木木木木木木
 木木木木木木木木木
木木木木木木木木木木木   専務

ということになった
これじゃあ森じゃなくてツリーでしょ
と思ったけれど
部長が満足したのならそれでいい
と小平社員は書類を提出した

その後
専務は激怒した


自由詩 迷い森 Copyright 木屋 亞万 2008-07-22 02:43:19
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