おじいちゃんとパンダ夜話
結城 森士

昨日の夢の中に、7年前に死んだおじいちゃんが現れた。

俺「お、おじいちゃん。何かこの世に未練でもあったんですか?」
爺「パンダは好きか?」
俺「…は?」
爺「ジャイアントパンダは好きか?」
俺「い、いや。実際、見たことないしさ・・・」
爺「たれパンダは好きか?」
俺「別に好きじゃないけど・・・って、おじいちゃん何を聞きに来たんだよ」
爺「いや、実はな」
俺「うん」
爺「わしは、一人暮らしをしているお前に、どうしても…」
俺「うん」
爺「パンダが好きか聞きたかったんじゃ」
俺「いやそのね、理由を聞いているんだけど」
爺「パンダが好きか聞きたかったんじゃ」
俺「2回言わなくていいよ… で、何の目的で現れたの?」
爺「レッサーパンダはパンダの仲間じゃないのだよ」
俺「聞いてないよ」
爺「昔から人の話を聞かない子じゃった…」
俺「あんたのことだよ」
爺「あんたって言われた」
俺「あ…ごめん」
爺「パンダにも言われたことないのに…」
俺「うるせーよ」
爺「パンダが泣いているぞ」
俺「パンダに悲しまれる謂われはないよ」
爺「わしはな…お前が心配なんじゃ」
俺「……なんで?」
爺「ちゃんと笹食っているか?」
俺「食わねーよ!!」
爺「ちゃんとゴロゴロしてなくちゃいかんぞ」
俺「それが孫を心配する台詞か…」
爺「わしはな…お前が心配なんじゃ」
俺「だから、なんでだよ」
爺「わしはかつて、陸軍の突撃兵じゃった」
俺「なんだか話がすごい飛躍したみたいだけど…」
爺「配給された食い物は一切れのパンダ」
俺「パンダ食うなよ!!ていうかそれを言うために昔話をし始めたのかよ…」
爺「まだ話は終わっとらん」
俺「ややこしいってば」
爺「昔から人の話を聞かない子じゃった…」
俺「どっちがだよ!大体、おじい」
爺「わしはな」
俺「人の話聞けよ!!」
爺「戦争が終わって間もない頃、動物園で働いていたんだ」
俺「初耳なんだけど…」
爺「ある日、わしが必死に世話をしていたパンダが子供を生んだんだ」
俺「うん」
爺「あの時は嬉しかったな。あの時わしは決心したんじゃ」
俺「何を?」
爺「一生をかけてパンダを守ると。そしてすぐに」
俺「すぐに?」
爺「魚屋に転職した」
俺「決心はどうなったんだよ…!」
爺「人の心は移ろいやすいものじゃよ」
俺「意味分からないよ!」
爺「パンダはわしが一生をかけて守る!わしの目の周りが黒いうちはな!」
俺「塗ってたのかよ!」
爺「たれパンダ」
俺「かわいくねーよ!」
爺「気にするな、全部嘘じゃから」
俺「もういいよ!!早く帰れよ!」

すると、おじいちゃんは寂しそうに窓の外を見た

爺「わしはな…。わしは、一人暮らしをしているお前に、どうしても…」
俺「お、おじいちゃん…」
爺「パンダが好きか聞きたかったんじゃ」
俺「帰れ」


散文(批評随筆小説等) おじいちゃんとパンダ夜話 Copyright 結城 森士 2008-07-21 22:36:39
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