ひとり歩き
伯井まなと

朝靄に煙る海岸線伝い歩けば白いくじらのあくび

砂浜に誰かの書いた「速達」の文字に急かされ振り向けば君

波音に耳を傾け君の背に地図を広げて「夏」始動する

陽だまりに投げるビー玉 あの海とあの空模様を吸いとっている

ため息を繰り返すだけずるいよね 僕に「好きだ」と言わせるなんて

無意識と努めて意識してみたら「不自然だね」と肘突き交わす

むつかしい言葉を捨てて海原のいるかになってぼくを捕らえて

紙袋から覗いてる白パンをテトラポットに乗っかり食べた

追い風にジェット気流を捕らえたら君は波乗り ノースウェスト

「Hollywood!」叫んで飛んで着地した「crazyだね」「みんな観てるよ!」

「C’mon! C’mon!」波打ち際に立つ君の呼びかけひとつに楽しくなるよ

くたびれたぼくの自転車 君もまた「夏が似あうね!」歪に照れる

ひまわりの種をぽりぽり食みながら「超幸せ!」と嘯いてみた

明日地球ほしがなくならないとしてもなお「I’m with you.」「Are you sure?」

堤防に君とぼくとで立ちすくむ 砕ける波にある過去未来

獣道を歩む速度でぼくたちは子犬のようにじゃれあっている

「もし君が僕だとしたら何したい?」にやける君とひとつになろう

「時間ならいくらでもあるさ」「嘘だよね」すべて投げ出し午睡をしよう

雨声を訳してくれる人とならずっと一緒にいてもいいのに

アスファルトにぶちまけられたかき氷がダイヤモンドになったらいいね

日を浴びてかもめは死んだ。「泣かないで。松葉も濡れて瞬いている」

「太陽は知らないことさ」知らなくていいことだのにぼくは知りたい

「つま先がシクシクするよ」手を繋ぎ落ちる夕日をずっと見ていた

積雲のような恋ならこのままでいさせてほしい 子どものままで

もし君の一番星になれないのならぼくに微笑み向けてくれるな

「怒ってよ。怒ってよ。ねえ、怒ってよ!」「やだよ。いやだよ。絶対にやだ!」

「潮時だ」なんて水平線を見てかすれた声で言わないでよね

行かないでひとりはいやだ行かないで 泣きたいときになみだも来ない

傷口は開いたばかりまた「ここ」が「ここ」が痛むよ 摘み草をする

海沿いのひとり歩きを始めた日から思い出せないくらい歩いた


短歌 ひとり歩き Copyright 伯井まなと 2004-07-19 12:15:02
notebook Home 戻る