向日葵
松本 卓也

ふとホテルの窓を開けて
景色を眺めてみたくなった

泊まり慣れたビジネスホテル
四缶目の酒を呷りつつ
少し薄くなった頭髪を気にする
まだ大丈夫だとは思うけど

目的も夢も自分自身でさえ
あやふやな暮らしが過ぎていく
今までのように身の上を嘆くことも
単に我儘な駄々でしかないと気づいたから

新大阪駅の高架下を潜りながら
他人と目を合わせないようにすり抜ける
一週間の出張は長いようで短い
もう半年後には三十になるのだ

パチンコ屋の店先に咲き乱れる
向日葵の花びらに指を伸ばす
それはただの造花だけれども
幼い頃その姿を真似ながら
両手を広げていた自分の姿を
なぜか鮮明に思い出していた

ただ生きていくだけのため
懸命に太陽を追いかけて
やがて力尽きる日までと
言い聞かせていた気がする

だけど今零れるため息に
何一つも未来などありやしない
ただ草臥れて萎れ首を垂らし
歯を食いしばり足掻くだけの日々

汗を流し歩くアスファルトの先に
向日葵など咲いていやしないのに

吸い終えたタバコを灰皿に放り
鞄を抱えようと伸ばした指の先に
細長い種が一つ落ちていた

家に帰ったら庭先に植えてみよう
財布の中にしまいこんだのは
なぜかしらとても大切な何かを
思い出せそうな気がしたからで


自由詩 向日葵 Copyright 松本 卓也 2008-07-15 22:13:17
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