こんな堤防の上をあるいている
水町綜助
何かにつけても
茫洋として寄る辺のない
暗い淵が見えるにもかかわらず
湿りを含まない
重さのない空気を吸い
吸うばかりでそのために
くらり
反転した写真のような明るさと笑顔の中
街を歩いては喝采している
たとえば郊外の貯水池へ行く
危険と書かれたくさりの掛かった堤防は
遠く遠く延びて
右手に広々とした池の水面(もはや湖面と言ってしまっていいほどの)が初夏の
風にさざ波をたてて
青々としているかと思えば
ほとりには真緑の
甘みを持つような水がまるく打ち寄せている
しきりに
堤防の左手は急勾配の斜面で
身を屈め草いきれを嗅ごうとすれば
草の生い茂るちょうど葉先に両瞳は浮かび
わたる風がさざ波をたてるのを
斜面の下の農道まで見つめている
小花が咲いている
いずれにせよ堤防の上には
しちがつの始め
早くも体をじりじりと焼き
舗装路の継ぎ目に液体を塗り込めてしまいそうないわゆる太陽(いつもどこかに浮かんでいる)(落ちなどしない)が伏し目がちに
焦点を合わせることなく落とし
(なので視線の合うことはない)
私もまつげが邪魔をしている
燐光ばかり実らせる
見飽きた
甘いものばかりでは?
後ろをあるく人がいる
堤防の半分を過ぎた頃
白い桟橋が架けられた先に
小さな管理塔があって
池に向かって開かれた窓はパノラマで青い
その空気の停まった施設の中で
操作したいと思う
きっと左右のレバーを両手に握って
操作したい
池のぐるりを取り囲む工場群を
生産者の私
桟橋の入り口には格子がありやはり鍵はかかっているが跨げない高さではないし
横
目
に
歩
き堤防の終わりにもきけんと書かれたくさりが掛けられ
虎縞模様だった
とはいえこれも斜め
文字は縦と横
斜めに傾いだ一文字を
しるしていくことをしてみる
文字を斜めに書き
そのすぐ下に同じく斜めにしるしつづければ
縦にうつくしく並ぶ
それで文句はないでしょう
こ
う
い
う
こ
と
ではないよ
こういうことだよ
首を傾げてみてください
そして傾げた首に合わせて体を動かしてください
だからと言って
なんでもなく
と言う暇つぶしを
ぶつぶつ考えながら
街を歩いて喝采している
何に
からりとしたくだらない
反転した
明るさにつつまれた
愛しい日々に
堤防の道そこから先は
つまらなそうだったので
きびすを返して行くのをやめた
こんな日々