もうすこし、やさしく
折釘

流しでグラスが割れた
まな板がおもいきり悪く愛をとなえると
こらえきらずにグラスが割れた
数すくない夢を
多角のくちびるに運び疲れ
包丁と見つめあっていたからか
鋭く指に切れ目をつけて流しは
鮮血に濡れる
もうすこし、優しく
もうすこし、この身になれば
水は滲みてとてもつめたい
グラスは死んでしまって
生きているときよりも
うつしく叫んで
けれども音にはならず
指とグラスは遠くの空缶を見ていた
こんなところにもさようならがあった
幾重にもビニールにくるんで
長い時の果てに流れ出すというガラスは
水で水を包んでいるようなもの
そう思おう
わたしは包もう
もうすこし、やさしく



自由詩 もうすこし、やさしく Copyright 折釘 2004-07-17 14:10:44
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