ネムの花
蒼木りん

カラカラに渇くほどにもなれずに
帰り着き
ささやかな眠りも
ため息の記憶が許さない

もうすぐ
あの人の帰る時間

雷が遠くで鳴る
いったい
どこに落ちたのだろう
あの放電の
地と天につながる一瞬
黒灰の雲空はまさに
魔物の腸のようと思う

遥か昔から人々は
こうやってやり過ごしてきたのだろう

カナカナ
蝉が鳴くから
それすらも他愛無く
私は
葉を閉じささやかな
金の雌しべの花を咲かせ
自身の殻の中に閉じこもりたい

誰もここに
ちかづかせないで

迫られた選択に押されて
押し殺して
取り繕うお芝居は
夕食を作って
洗濯をして
あなたを待っている私

それだけで
あなたは満たされない

名前は同じでも
あなたと私は
欲しいもの色や形や
食べ物の味がちがう

あなたは数学的で
私は国語的なくらいに
どこかで妥協しなければ
一芝居打たなければ

薄闇の
空だけはまだ青く
19時のカナカナ
蝉の声を聞けば
ネムの花咲き
カラカラに渇くほどにもなれずに

今日も


未詩・独白 ネムの花 Copyright 蒼木りん 2004-07-16 19:55:49
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