ホムンクルスの大きな手
こんぺき13ごう


 別れぎわに振ったときも軽い手
 その指さきから飛散する言葉の感じ/トン・コープマンの音に近いかもしれない

 差しのべた手が届かなかった空虚

 灰色の猫をかまうときの手の感触/そして引っ掻かれたときのひきつる痛み

 音もなく指さきからほどけてゆく夜の甘さ
 彼が夢をかたるときの手振りの可笑しさ
 差しのべられた手を握ったときの恥ずかしさ

 ホムンクルスの大きな手


 ―――


 アートマンとブラフマンが両手を取って
 くるくるとまわってまわって消えるみたいな

 まるで焼け落ちそうな殺意だった


―――


 この手を優しく包んでくれる手などありはしない
 できのいい絵だけをコラージュしてコラージュして
 さて、こんな世界でもし、あの人のように笑えたらどうだろう

 茶番劇は第四章へ突入し、生まれた時の興奮は冷めていくばかり


―――


 きみのなかで閉じたわたしが
 ここでいくら新しくなっても意味なんてない
 きれいな虚像がとりまいておとずれる春
 首に縄をかけるような痛みをもってきみを閉じた


―――


 みんな似たような顔をして歩いていく
 交差点はわたしのレプリカであふれかえっていた
 わたしにできることといえば、それらを見ないことくらい

 昨日は死にそうな顔で談笑しながら、
 この嘘らしい平淡さが壊れる夢を追った


―――



 窓のそとにみえるものが少しずつ小さくなっていく

 わたしのひざの上に、あなたが好きだった景色だとか花だとかわたしだとか、そんなものがばらばらになってふってきて、わたしはまた太陽をちへいせんの向こうへ落としてしまう


―――


 性行為で連鎖(せいめい)


―――


 エンジンがかかっていないことを確認して、
 ハンドルを切った夜はままごとで世間をわらう

 子供は大人じゃないから、なんだってできるよ


―――


 二度と会えなくなると知ったら
 二度とあえなくなるのがかなしくなる


―――


「どちらでもない。」と笑うのはもうたくさん

 太陽がちへいせんに食べられてゆくように
 わたしはあなたを許そう。



自由詩 ホムンクルスの大きな手 Copyright こんぺき13ごう 2008-06-29 12:41:37
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