アンテ


真っ直ぐな樹は根付く先を求めて
荒れた大地を歩き通し
ついに小さな森にたどり着いた
黒い雲がどんよりと空に垂れこめていて
森全体がうす暗く
樹々はみな痩せ細って
わずかな光を求めて伸ばした枝葉がからまりあって
身動きのできない状態だった
真っ直ぐな樹は混乱を収めようとしたが
樹々は口汚く罵り合うばかりだった
それでも根気よくからまった枝を解き
葉をかき分けながら
わずかなすき間を作って森へ分け入り
なんとか中心にたどり着いた
ところが森の主は朽ち果てて
無惨な残骸と化していた
真っ直ぐな樹は必死に他の樹たちに呼びかけたが
だれも耳をかそうとせず
そうするうちに弱りはてて
枝が全部枯れ落ちて幹だけになった
雲行きはますます怪しくなり
稲光が何度かくり返したかと思うと
激しい音とともに雷が真っ直ぐな樹に落ちた
幹が一瞬で焼け焦げ
火は他の樹々に燃え広がって
大量の枝葉が灰になり
ようやく火がおさまったあとには
蛇行した樹々の幹が林立しているだけの
奇妙な風景が残された
やがて雨が落ちはじめると
灰は土にかえり
樹々はうなだれて雨に打たれつづけた
次第に雲が色を失い
雨足が途絶えると
雲のあい間にわずかな切れ目ができて
光の束が森を明るく照らした
樹々は蛇行していた幹を必死にのばして
全身を震わせて叫んだ
それを合図に
雲はもとどおり空を黒く覆って
光を閉ざしてしまった
森が再び暗闇に包まれた頃
樹々の幹からようやく
新しい枝葉が芽を出した
枝は空をめざして力強く伸び
葉は光を求めて大きく広がった



自由詩Copyright アンテ 2004-07-16 01:22:37
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