トマト畑。
遊佐
*
トマト畑の夏は
麦藁帽子のひさしの向こう側、
湧き立つ雲と
焼けつく陽射しの中に消えた幻。
雨上がり、塩を片手にかじった果実は、
少し青臭い匂いがした。
*
入道雲と夕立の夏
いつまでも沈まない太陽が、与えてくれた冒険の一時は
セピア色とモノクロの間に溶けて消えた夢。一番星の光と
空と海の青と
そのはざまの曖昧な印象が、
柔和な画面を遺して、記憶を刻んで行く。
*
巻き戻せないフィルムが、カタカタと音を立てながら空回りする今でさえ、忘れられないのは
ソーダ水のパチパチと弾ける感触のような、涼しさが胸に込み上げて来るから。
炎天下に、しゃがんでかじったトマトの青は、
決して美味い物ではなかった筈で、
それは、紛れもないことで…
*
でもそれは、
間違いなく、
あの日の僕には御馳走だったと、
それを懐かしむ僕は、また少年に帰る時を迎えたのだろう。
暑く、楽しい、
麦藁帽子の夏。
トマト畑の青臭い夏。