海蛍 (一)
銀猫
爪先で掻き分ける、
さりり、
砂の感触だけが
現実味を帯びる
ひと足ごとに指を刺す貝の欠片は
痛みとは違う顔をして
薄灰色に溶けている
こころの真ん中が
きりきりと痛んで
夢遊病、
もしくは
遁走、
それに似た列車を乗り継いで
夜を泳ぎにこの海へ来た
魚影を縁取る青白い海蛍と
黒い音を引き連れて
膨らむ水面
生命はそこここに散らばり
誰の存在感も
等しく消されている
音の無かった鼓膜に
夜、が響いて
生温いわたしの生命が目覚める
さりり、
砂、の音
ひと足ごとに
小さな赤が滲み
胸に蒼い火が灯る