馬車部屋
暗闇れもん

「ここにいたんですか」

濡れた髪を乾かすことなく、彼はあの空間にいた。
馬車部屋と私は呼んでいる。
重い木の扉を開けるとそこはいつも馬車の中だった。
開いた扉に背を向けて、彼は馬車の向かう闇を見ていた。
雷鳴が轟く嵐の中を漆黒の馬は走り抜ける。

「お客様がお待ちです」

「今日は嵐か?」

「いいえ」

馬車の硬い椅子に同化していた体が少しずつはがれていく。

「今は暗闇か?」

「ええ、月も見えない夜です」

白く細い腕につかまれ、引き寄せられる。

「冗談がすぎます」

「そうだな、爪が折れてしまった」

彼に促され部屋を出る。
彼と私を吐き出して消える馬車部屋。

無造作に髪をかきあげ、落ちた雫が床を赤く濡らしていった。









自由詩 馬車部屋 Copyright 暗闇れもん 2008-06-20 22:54:55
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