朱夏
きりえしふみ

 ジリジリと焼かれてみたいんだろ?
 噎(む)せ返るよう 夏の視線に
 押し潰されてみたいんだろ? 粉々に粉砕されて
 ジリジリと焼け爛れた 熱の中に紛れ込みたい……混じり合いたいんだろう? 
 焼き尽したいんだろう?
 (ダレカに………ダレカと……ダレカを……)

 (ジリジリと接近する地面)……お前は 嘗て目指していたんだ 空の高みを……
 が 水を差すよう 茹(う)だる暑さの その低音に
 お前は地面に投げ入れられた……踏みつけられた お前自身のその陰に呼び止められた
 縫い付けられた (よもや結ぶのが不得手な太陽の指に) 不格好に

   (白い羽など 切り捨ててしまえ)……ソンナモノ それだけでは
   誰の元へも 飛んでゆけない
   (仮初めの自由など 屑籠にまとめて捨てちまえ!)……ソンナモノでは
   きっと……もっと……いつも……もっと!……と
   “自由”に飼われた 自由の番犬 自由の捨てゴマ!……になっちまうんだ

 ジリジリ焼かれてみたいんだろ?
 けぶるような 夏の暑さに
 焼かれて 溶けて 焼き尽くされ……焼き尽してみたいんだろ?
 (ダレカに………ダレカと……ダレカを)

 這い蹲(つくば)うように……叫び……生きてみたいんだろ?……求めたい……本気、になりたいんだろう?
 地面に打ち捨てられた 安っぽい……陳腐な 醜い あの文字の一群のように まるで
 恋しい男の唇を以ってしても 引き起こされなかった 朝と昼を
 二人まとめて無理矢理外気へ 放り投げて接吻するかのよう! なその強引さで

  求められたい……求め合いたいんだろ?……ダレカに……ダレカと
 
 二十代の色を未だ 色濃く着込んでいる 滴らせている僕らは
 その若さのまま……その熱さのまま
 すまし顔 ハイヒール 名刺などを 屑籠に投げ捨てた

  (ジリジリ焼かれて……焼いてみたい……お前……ダレカ……ダレカと……混じり合い……たい?……)

 (c)shifumi kirye 2008/06/16



自由詩 朱夏 Copyright きりえしふみ 2008-06-17 16:39:36
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