在る日
黒子 恭

 
母は息をとめた。
言葉をひとしきり噛み締めると、
眠るように最後の息を吐いて
彗星の隣を駆け抜けた。
 
父はまなこの裏側で
時折、不精髭を擦りながら
シャンパーニュの一億に混じり私の喉を鳴らし、
孤独とは何かを教えずに
背中でキャッチボールを試みる。
 
祖父は戦争の傷痕に
柔らかい草を植えて
その下でひっそりと
雨を吸い込む。
 
祖母は手を見つめて
溜め息をこぼす前の
私のしゃがれた耳元で
そっと愛を囁き、
それは地球を巡る風になって
今はエジプト辺りの空で
雲を弾き出している。
 
兄が隣で涙を流し、
哀しみに明け暮れている間に
妹はどこかの歓楽街で、
女になった。
 
私は私で、
メトロを歩く影のように
今日も誰かを
レールの上に
突き落としている
 
 
 
 
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自由詩 在る日 Copyright 黒子 恭 2008-06-14 04:28:21
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