渇いている(嘘つき)
竜一郎
結局は何をやってもだめでここに戻ってきてしまう、というのが口癖の少年は、ぶらりぶらりと彼の前を歩いているあの貧相な犬のことを考えている。骨が皮を通して見えるほど痩せこけて、どうしてあそこまで渇いているのかと思っては、却って渇いているのは、ずんぐりと太っているうちの飼い犬じゃないかと思い直して。ぶらりぶらりと、歩いている。
じゃあなにか、飢える精神は求めるのではなく飽いたことに起因するのかと訊ねられて、「この時代はそんなものかしらん」と彼は答える。求めたがゆえに与えられるのではなく、与えられたがゆえに与えられ(自己矛盾)、求めるがゆえに求める(自己撞着)。結末はないんだ。「To be continued」のサイン(次へ続く)だけで、終わりがない。場が崩壊するまで、飽くなき反復とかすかな差異があるだけだ。
少年は歩みを止めて、ポケットに入っていた詩集を取り出す。一読して、くるりと反転してあの犬から遠ざかる。家にも帰らない。ポケットに手を突っ込んで、のらりくらりと歩いてゆく。足元から壊れて、次も壊して、崩落しかない道筋を、頭痛を抱えて歩いて。