日向の匂い
銀猫
灰色の雨が上がって
ようやく緑が光り始めた
葉脈を辿る水の音さえ
響いてくる気がする
穏やかな五月の庭で
白いシャツが揺れる
遠くから届く草野球の掛け声が
太陽を呼ぶ
きみも
こんな陽射しの下で
空を仰いでいるのだろうか
きみの背中も
日向の匂いがするのだろうか
きみにまつわる物語は
むしろ神話のようで
幾つもの川に隔てられて
向こう岸に渡れずにいるわたしは
暖かすぎる空気が哀しく
爪を噛んでみたりする
思い出はときに
こころに針を刺し
寂しさに膨らんだ胸を
ぱん、と破裂させる
けれど
今日も笑顔で暮らすのだ
こんな悲しみ方がどこかにあっても
いいのかもしれない