ききき
REMINGSセシル

彼はある意味では強く生きていました

ある意味ではというのは

彼は痛みの神経を

遥か宇宙の果てにおいてきたのです


彼は自分の強さに自信がありました

それはもう何年も、

到底、宇宙の彼方においやった

痛みの神経を揺るがす存在などなかったのですから


そもそも痛みを好んで与えようと

するもの自体が希少でありましたし

そういうものに偶然

出会った

としても

何の問題もなく、彼は

実にうまくかわしていました




だから時々彼は自虐的でありました

しかし彼のタフは相当なものでした

彼は

自分で遥か彼方へおいやった

痛みの神経をおびやかす、

彼のタフをくつがえすものを

探していました



彼は単純に

まず泣きませんでした



120年、ふたりで月で暮らした後に

その後

さらに120年ひとりで月で暮らしたとしても

彼は泣きませんでした


いや、嘘です


120年ひとりで暮らさない術を知っていました

彼は孤独を逃れる為には

なにをもする人でした


あるときは彼は媚を売りました

あるときは彼は大金を払いました

あるときは力ずくで乗り切りました


そうやってどんな時も

うまく痛みの星へ辿り着かせないために

彼は非常にうまくたくさんのことを

切り抜けました



そして1200年が経ちました

彼は

追いやってしまった痛みの神経



宇宙の果てにしっかり存在しているのか

どうかが

わからなくなりました


瞳から流れる

雫がどうやって流れてくるのか

本当に頬をつたうのか

わからなくなりました



1200年目の冬の夜明け前

彼は第四団地の27階の屋上から

そっと

無表情に彼女と手をつないで

飛び降りるときも

何も

かわらないままでした



落ちていく瞬間

凍えるような冷たい風が



なにも

かわらないぼくと

彼女の間を

吹き抜けていきました



そんなときでさえ

こんなものかと思ううちに

ぼくと彼女は

強く地面にたたきつけられました


自由詩 ききき Copyright REMINGSセシル 2008-05-27 01:11:29
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