ボタンと妹
亜樹

昨日の嵐で庭の牡丹が萎れまして
そのくすんだ赤い花弁を撫でながら
ヤライフウウノコエ……と妹が呟きました。
その指の白さと花弁の赤さを見ながら
私は本当に彼女が愛おしいと思うたのです。


それはもしかしたらまとわりつく糸のようなもので
鎖であるやもしれません。
世界の狭さを嘆くのに
あとどれほどの語彙が必要でしょうか。
雨が降った庭はぬかるんで
そこに彼女の小さな足跡がついています。
水溜りの上には
多分綺麗な青空がうつっていたのです。
それを見ていたはずなのに。
それに気づいたはずなのに。


嵐が去った次の朝
明るい空の下で
妹はヤライフウウノコエ……と呟きました。
私が本当に彼女を愛おしいと思うたとき
とうとう世界は閉じたのです。


自由詩 ボタンと妹 Copyright 亜樹 2008-05-26 23:13:22
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