佐藤清児

草木と土の匂いが
とても近くにあった
大地に捨てられているのか、私の身体は。
顔を傾かせ
地面に耳を宛がう

姿の無い何者かが
私の身体をゆっくりと押さえつけてくるような
鈍い重圧を感じた
身を起こさんとする間に
また
鳥達のさえずりが反響し合って
聴覚に溶け込んでいく
目を瞑れば良い。
(目を)目を瞑れば。

そして視覚は
ただ、東から日没に向かって、ゆっくりと溶けていった










姉が泣いている
姉が泣いている
姉が泣いて
母が、母が
恵理、恵理、恵理
私は何処にいるのか


姉が泣いている
この地面の近くで


手よ
大地から生えよ
私はここにいるよ


やがて足音が遠ざかってゆき
再び静寂が訪れた

鳥達は皆
其々の住処へと飛び去っていった

(お母さん、)
後にはただ
溶けきれなかった想いが存在している





日に日に
私は浅くなって
日に日に
奥に埋もれていくようだ
(お母さん、)













珠に
飛び立てなかった雛の
果てた躯が私の元に転がってきた
草木の匂いは
彼らを包み込んで
下へ下へと
(下へと)押し込めた

一体、
どれほどの想いが
沈んでいったのだろうか

干からびた老婆が
近くにやってきて
何かを呼んでいた
それは誰であろうか
姉が過ぎ去ってから
どれほどの時が経ったのだろうか

私はただ
名前の無い赤い花を咲かせているだけである
(私はもう行きます)


自由詩Copyright 佐藤清児 2008-05-26 20:30:49
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