アーケード街のマーチ
六九郎




ピーヒャーラ、ピ
ピーヒャーラ、ピ

日曜の昼下がり
買い物客で賑わうアーケードに
音のないマーチが響く

ピーヒャーラ、ピーヒャーラ

通りの真ん中に
立ち現れる
一人の女

ピーヒャーラ、ピピピ

赤茶けてよじれた髪の毛に
くすんで汚れた顔の剥き出しの目と
ひび割れた靴のない象の足と

ピーヒャーラ、ピ
ピーヒャーラ、ピ

浮いたような足取りで
何かに触れようとするかのように突き出した両手で
空を掻き寄せ一歩ずつ

ピーヒャーラ、ピーヒャーラ

見開かれた女の目には
ショーウィンドウも着飾った通行人も映らず
ショーウィンドウや通行人の目には
女は映らず

ピーヒャーラ、ピピピ

足を引きずる女の後には
見えない鼓笛隊が続く
見えない鼓笛隊は子供達

ピーヒャーラ、ピ
ピーヒャーラ、ピ

見えない鼓笛隊の後には
見えない兵隊が続く
見えない兵隊は大人達

ピーヒャーラ、ピーヒャーラ

見えない兵隊の後には
犬や、烏や、牛や、豚や
蛇や、蛙や、魚や、虫や

ピーヒャーラ、ピピピ

生き物達の後には              
鼻紙や女郎屋や煙突や
ズック靴や産婆や雨戸や
バキュームカーや裸電球や百葉箱や
こけしや痰壷や畜犬管理所や
路面電車や皮膚科医院や街灯や
村八分や夢の島や白黒テレビや

ピーヒャーラ、ピーヒャーラ
ピーヒャーラ、ピピピ

立ち昇りながらゆらゆらと
静かなマーチが
進んでいく


自由詩 アーケード街のマーチ Copyright 六九郎 2008-05-26 20:22:01
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