フライング・アイス
木屋 亞万

靴の中身が煮えてきた
シャツは背中に張り付いて
ベタベタとした初夏の汗が出る
まだ夜は寒いので春のシャツで
上着を脱いでも身体は熱いまま
刺すような日差しに萎びる空気
プールがあれば倒れ込みたい
雨が降れば傘を捨てて走り出す
雪女がいれば抱きつきたい
そんな想像に脳内納涼しながら
力なく歩く帰りの道すがら
駄菓子屋の前でミイラになって
白い業務用冷凍庫の中の霜を
ちらりと横目に盗み見る
霜に囲まれた氷のオアシスには
みかん味のかき氷が入っている
オレンジの丸いカップは
白夜の太陽のようにこうこうと
脳内に納涼の透明感を与えてくれる
木のへらスプーンがシャリリと
溶け始めた外側から削り取っていく
後頭部が痛くなる刺激的な涼しさ
口の中が少し麻痺した後の甘味
舌に濃厚に絡みついてくる
駄菓子屋のみかんの味がして
しばらくは吸う息が心地いい
核に迫るほどに氷山は溶けて
ベシャベシャの蜜柑水が溜まる
橙色の水溜まりを山ごとすする
鼻を抜けるみかんの余韻と
唇の甘さによるべたつきに
しばらく身を任せてから
再び熱っせられつつある身体を
短いホースの着いた水呑場で冷ます
甘さのべたつきを洗い流し
さっぱりとした清涼感に浸る
夏にしかできない涼しさを満喫
たまには誘惑に負けてみようか

おばちゃんアイス一つちょーだい

缶に百円を入れて
隣のスプーンを取る
まだ梅雨の来ない
蝉が鳴く気配などない
この時期に季節を先取り
アイスを頬張る


自由詩 フライング・アイス Copyright 木屋 亞万 2008-05-26 01:19:56
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象徴は雨