縞田みやぎ

倒れてから半年
「紐をください」
孫にも敬語を使う
あてがわれた部屋で
『紐』の本に指を挟んだ

「趣味くらい」と彼の娘
わたくしの母
手芸用の太い編み紐を
渡したのは確信犯だった
笑う半身を傾けた
石の背中
老人

どうしても
言うことを聞かぬ指
綿毛の日和
軽くなっていくたましい
彼の指は
震える指は
紐の輪を作れなかった

娘たちは不仲を誓い
彼の下の娘
わたくしのおばは
彼を自分の国へとさらっていった
振り返る
おばのヒステリーに紛れ
故郷さえ発つ老人
傾けた背中

天井を見上げて
ゆるく結んだ紐の輪を
はさみで切り
「趣味くらい」
確信犯がつぶやく


自由詩Copyright 縞田みやぎ 2008-05-25 00:18:45
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