ゴミ箱
小原あき

ゴミ箱を作ったので
いらないものを捨てた
だけど、ゴミ箱はまだ満足していなかった
仕方がないので
最近、増えすぎて
持ちきれなくなった不安を捨てた
ゴミ箱は少し満足したようだった
その日はよく眠れた
やっぱりゴミ箱を作って良かった


翌日、朝からゴミ箱はうるさかった
いらないものを欲しがっていた
そうそう感情は捨てられないので
鼻をかんだティッシュを投げた
だけど、満足しなかった
仕方がないので悲しみを投げた
少し前に犬が死んだ時に拾った
小さな悲しみだった


昼過ぎにゴミ箱は騒ぎ始めた
覗いてみるとゴミ箱の中は渦巻いていた
とりあえずお昼ご飯の残りを投げたけど
やはり彼が欲しているのは
人の感情らしかった
仕方がないので寂しさを投げた
わたしの心は
どんどんシンプルになっていく


ゴミ箱を作ってから数日
すっかりシンプルになったわたしは
夫が帰ってきても
愛犬の写真を見ても
空を眺めても
美味しいものを食べても
明日が来なくても


だからなんなのかわからなくなっていた


心臓が動いていればそれで良かった
すべてがそれだけの為に
動いているだけだった


楽しみは捨てないでいた
いらないもののようには思えなかったから
だけど、今では
楽しみがなんなのかわからなくなって
ただ、ひたすら
ゴミ箱をスケッチしている




自由詩 ゴミ箱 Copyright 小原あき 2008-05-23 13:13:04
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こころの、こえ。