「地下一階から見上げているひとへ」
ベンジャミン

あなたはまだ
地下一階にたたずんだまま
この世に生をさずかる前の詩です

見えるはずもない空の
その方向をさがしている
一鎖の言葉のつらなりです

空はきっと上にあると思い
自然と見上げるようなしぐさで
そして生まれる前の詩を書くのです

地上に上がれば日常があり
日常があるのと同じく現実があるので
それが怖いのはわかる気がします

だからあなたはまだ
この世に生をさずかる前の詩に
巨大に美しい空を描きたいと願います

あるときは白いノートの上
あるときはまるまってうずくまり
閉じたままの瞳のおくにある

それを言葉にしてしまうのが
怖いという気持ちと
たたかうように


だからあなたはまだ
この世に生をさずかる前の詩を
あなたという部屋のおくにかくして

そして見上げようとする空が
空っぽではないことを祈りながら
空を描こうとするのです

けれどあなたは
そんな空を知らないので
あの巨大に明るい空を見ていないので

だからあなたはまだ
まだそこにいて見上げること
それが自分にできる唯一だと思うのです

あなたの部屋には

たとえ地下一階でも
窓があり

きっと
扉もあるはずなに


自由詩 「地下一階から見上げているひとへ」 Copyright ベンジャミン 2008-05-23 13:10:55
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