死なないでください、殺さないでください。
はち

 私は元々、リストカット癖がありました。
今はもう落ち着いていますが、今も腕には
沢山の傷跡が深々と刻まれています。
 また、私は何度も自殺未遂を起こしました。
包丁で自分を刺そうとした、
大量の薬を飲んだ、
車に飛び出そうとした、
その度、誰かが私を助け、誰かが私を止めました。
そしてその人は言います。
「どうしてこんなことするの。
残される人がどんなに辛いかわからないのか。」
と。でも私には、残されるなんてことわかりません。
沢山の人が私のために流した涙の、意味も重さも
私はわからなかった。
 ある日、ある人が自殺をしました。いじめでした。
その人は、私の友達と、一度だけ会ったことのある人でした。
たった一度しか会っていないのに、
友達は何日も、何日も涙を流しました。
「なぜ、気付いてあげられなかったんだろう。
なぜ、自分は何もしてあげられなかったんだろう。」
そして、いじめによって彼を自殺に追い込んだ人も、
友達と関わりのある人でした。
友達は言います。
「なんであいつが。そんな人だったなんて。」
とても傷つき、嘆き悲しみました。
 私は、彼らとはなんの関係もありませんでした。
自殺した人も、いじめをしていた人も、会ったこともありません。
でもなぜだか、とても悲しかった。心が痛かった。
傷ついていました。
友達が傷ついていたからです。
大切な友達が、傷ついていたからです。
 死は連鎖なんだと思います。
自殺という形で死を迎える人は、
とても深い傷を心に受けました。
その人を思って涙を流す周りの人々は、
同じように、心に深い傷を残します。
そんな人々の心の傷を、自分のことのように感じ
傷つく人がいる。
 一人の人が死ぬ。それだけで、
沢山の傷がこの世に刻まれます。
それが、残されるという悲しみでした。
 私のために流れた涙の重さを、
すこしでも理解した瞬間でした。
そして、私は沢山の人を傷つけていたんだと気付きました。
自分が、傷ついたから。
傷ついて、気付かされて。
でも私は、その涙を軽くすることなんてできない。
私のせいで傷ついた人々の心を、
癒すことなんて私にはできない。
だから私は、できるだけ多くの人に伝えたい。

死なないでください。

 そして、すこしでもこの世から
傷つく人が少なくなるように、どうか
殺さないでください。

愛してください。
抱きしめてください。

あなたのそばにいる、その人を。


散文(批評随筆小説等) 死なないでください、殺さないでください。 Copyright はち 2008-05-21 22:23:12
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