波葬
佐野権太

屹立した断崖に守られた
小さな浜である

波は平たく伸びて
漂着したものたちの空ろを
静かに洗う

持参した
小瓶のコルクをひねると
砂つぶのような詩がこぼれて
波にさらわれてゆく
その、ひとつひとつ

仰向けになり
鼓膜も、呼吸も
波の振幅にあずけ
海に抱かれる

*

屹立した断崖に守られた
小さな浜である

半ば砂に埋もれた流木の
滑らかな肌を
波が洗う

桜貝の欠片だろうか
ひとつ、拾って
光に翳す

ふと、視線を感じて振り向くと
先ほどの流木であった
人のかたちをしていて
眼窩のように窪んだ部位に
濃紺の海をたたえている







自由詩 波葬 Copyright 佐野権太 2008-05-21 18:16:05
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