鼓動する信号
あおば

                 080519







癒着した粘着液を
B29から落とし
不発弾に垂らし
静かに土を被せ
そのままにしておいた

不安が的中した
落下してから62年が経って
住宅密集地にも再開発の波が押し寄せて
貯め込んだ表土を押し流す
貴重な土のありがたさを知らない人民軍が
美しいケダモノが駆け回る荒野を焼き払い
ブルドーザーのエンジンは唸り
戦車のように厳しいキャタピラーは
辛じて蠢いていた者たちを押しつぶす
平らになった地面はアスファルトで舗装され
黒土を欲しがる春の草木を根絶やしにして
戦後生まれた建物の住み処を一掃してしまう

線路際の古ぼけた腕木式信号機
出発信号機は赤なので
単行の列車は停止したままに
カンコンと鳴り響くATSの警報音
今か今かと待ち望む
気の短い乗客たちが
前方を注視するうちに
単線区間の守り神
タブレットを交換して
対向列車が先に発車する
不公平にも感じるシステムの
時間は無限にあるのだと
腕木が下がる記憶を抱いた
不発弾を食らって目を回したままの
黒い表土が掘り起こされて
赤土の中から姿を現す守り神たち
素裸に晒されて
永久の眠りにつかされた

いましも京王電車の線路際では
落とされたものの不発のままで
眠らされた敵国の守り神
1トン爆弾の撤去作業が進行中
自衛隊員がテキパキと処理をする間も
避難所の住民たちは怯えた身体を丸くして
心臓の動悸を抑え避難解除の
無事の合図を待っている









タイトルは「poenique」の「即興ゴルコンダ」 望月ゆきさん


自由詩 鼓動する信号 Copyright あおば 2008-05-20 22:20:14
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