色のない街に行きたかった
健
赤い空に埋め尽くされた僕の街を
一羽の鳥が見おろして
どこまでも どこまでも 飛んで行かない
落下した鳥たちを
踏みしめて歩くその頭上で
擦り切れたフィルムをなぞるように
その光景は繰り返されてゆく
+
歩いているとつまづく
というのがこの街の決まりで
「それなら止まっていればいいじゃない」
と この街にいない誰かの声が
毎日同じように一定の速度で通り過ぎる
どこまでも行けない僕のすることと言えば
目を閉じて どこまでも青い空を眺めることだけだった
その空が広がるのは 当然僕の街ではなく
何か ずっと前に読んだ物語の
遠い遠い風景を切り取ったような場所で
そこには絶え間なく
ひとつのメロディが流れていた
繰り返し 繰り返し
ねじを巻いて
それでもいつかは捨てることになる
そんなオルゴールのような 音色だった
+
時折
自分以外の誰かの影が
すぐそばを横切った気がして
振り返ってしまうことがある
ここにあるのは誰かの声と
風が吹く音
そして 見おろす鳥の静かな視線
ただそれだけだというのに
+
赤 という色は
どんな景色にも似合ってしまう
+
閉じた目をまた開いて
逃げるようにして少しだけ歩く
バランスを崩したところで
やはり どうしても目を閉じてしまう
耳をふさいでも 同じメロディが聴こえる
+
どこまでも赤い空の下で
鳥たちはどこまでも落下を続けている
すべてがその羽の色に染まる中
僕は立ち止まることもできずに
今日もまた 歩き続けようとしている
むなしさと怒りを
不器用に 踵へと押し込んで
どこまでも どこまでも この青を 強く踏みしめながら