太陽犯罪
葉leaf

 野菜をたくさん載せて市場へと向かうトラックが横切っていく。水路には水草が揺れている。私は派出所へ向かい、被害届を出すところだ。この国では太陽が物を盗む。私の場合、被害としては最悪のケースで、家が盗まれた。昨日の午後3時ごろ、家がなにやら複雑に揺れ始め、タンスや食器棚が倒れたので、慌てて外に出ると、ほどなく私の家は空高くへ厳密な螺旋を描いて昇っていった。初めのころは太陽にも執行猶予がついた。だが今では太陽にも実刑が科されるようになっている。太陽は、2ヶ月前に3年の刑期を終えたばかりだった。懲役を科された太陽は、夏は涼しく、冬は暖かく照らすよう強制される。だからこの3年この国は快適だった。
 私は派出所で被害当時の有様を詳しく述べる。これは怒りと悩みの発散としては最適である。隣の伊藤さんも家が盗まれる様子を見ていたので有力な証人になるはずだ。古びた蛍光灯は端の方が黒ずんでいる。応対用の机の傷がなぜか気になる。太陽の奴も懲りないものですな。ええ、犯人は分かっているのですから、本当に何とかしてください。結局、裁判が開かれ、私には国から新しい家が補償されて、太陽は懲役8年の実刑となった。
 新しい家での生活にも慣れた頃、ニュースで、ついに太陽が人間を盗んだことが報じられた。しかも一度に5人である。人の生命をないがしろにする太陽の態度に、国民は憤慨した。太陽を死刑にすべきとの声が高まった。私は会社で書類を作ったり、家でタバコをふかしたりしながら議論の行方を見守った。太陽犯罪の被害者の一人として意見を求められることもあったが、意見を述べることはしなかった。
 裁判が開かれ、太陽には死刑が宣告された。そして、死刑は執行された。太陽のない国で、光はなく、大気は急激に冷え、私たちは死滅した。


自由詩 太陽犯罪 Copyright 葉leaf 2008-04-29 11:27:16
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