愛する者と愛される者
六九郎


それにしても狼
曠野を駆ける全能の捕食者
我々の祖先たる狼
その誇り高き彼らが
牙も毛皮も持たない猿のなり損ない共と
なに故友好関係を築いたのか
俺にとっての永遠の謎の一つ
信じた最良の友の手で
種を絶たれることになるとも知らずに
我が子同様に人間の赤ん坊を育てた狼もいたと言うのに
祖先の純真さととまどいを考えたとき
彼らが注いだ愛と受けた仕打ちを考えたとき
俺は涙を禁じ得ない




それにしても猫
喰うことと寝ること以外になにもしねえ
糞の役にも立たない奴等
尻尾を振ることも知らねえ屑が
猿のなり損ない共に
なに故あそこまで愛され続けるのか
俺にとっての永遠の謎のもう一つ
あいつらったらほんと
義理も恩も屁とも思わねえ
そこがいいとか何とか言う馬鹿もいるし



腹が鳴る
もう何日喰ってないだろう
声も屁もでねえ
そろそろ潮時か
思えば色々あったけど
今となってはもういいことしか思い出せない
結局一度もあんたの手を噛むことなかったね
猫共はご主人様とエサの区別もつかねえ馬鹿だけど
もちろん俺達はそんなことしない
よたよたと部屋を出る前に
俺は一度だけ振り返り
もう動かなくなったご主人様に最後の別れを告げる
さようなら
今までありがとう

今日から俺は
野良のミニチュアダックスフントです
名前はもうない







自由詩 愛する者と愛される者 Copyright 六九郎 2008-04-27 02:18:49
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