愛する者と愛される者
六九郎
狼
それにしても狼
曠野を駆ける全能の捕食者
我々の祖先たる狼
その誇り高き彼らが
牙も毛皮も持たない猿のなり損ない共と
なに故友好関係を築いたのか
俺にとっての永遠の謎の一つ
信じた最良の友の手で
種を絶たれることになるとも知らずに
我が子同様に人間の赤ん坊を育てた狼もいたと言うのに
祖先の純真さととまどいを考えたとき
彼らが注いだ愛と受けた仕打ちを考えたとき
俺は涙を禁じ得ない
猫
それにしても猫
喰うことと寝ること以外になにもしねえ
糞の役にも立たない奴等
尻尾を振ることも知らねえ屑が
猿のなり損ない共に
なに故あそこまで愛され続けるのか
俺にとっての永遠の謎のもう一つ
あいつらったらほんと
義理も恩も屁とも思わねえ
そこがいいとか何とか言う馬鹿もいるし
腹が鳴る
もう何日喰ってないだろう
声も屁もでねえ
そろそろ潮時か
思えば色々あったけど
今となってはもういいことしか思い出せない
結局一度もあんたの手を噛むことなかったね
猫共はご主人様とエサの区別もつかねえ馬鹿だけど
もちろん俺達はそんなことしない
よたよたと部屋を出る前に
俺は一度だけ振り返り
もう動かなくなったご主人様に最後の別れを告げる
さようなら
今までありがとう
今日から俺は
野良のミニチュアダックスフントです
名前はもうない