nostalgic
春日



生理を迎えたときのように
始まりを得たのに何かを失った気がするのは
まぼろしだったらよかったのに


紺色のプリーツスカートを下ろす
布と肌が擦れる音がする
それでも無音なのだから
今すぐにさらわれてしまいたいと
何度わたしは思ったんだろう


カーテンがひらりと舞えば
きみが現れる気がしてた
夕日が沈んだあとの空に似た
伸ばしっぱなしの爪のいろは
もうすぐ消えてしまうから、





「おとこの人がわたしみたいにちょっと個性的な顔をした女子より、目がぱっちりしてて整った顔立ちの女の子の方がすきなのは当たり前だと思うんだよ」


否定を待っていることばは
おれの心の奥底にさらりと流れ込む
それはたやすいことであるけれども
ときどきすこし悲しい
きみの目は猫みたいで
冗談でにゃあと鳴くのを聞けば
ほんとうに泣いているのだと気付かされる
きみを救うよりも掬いたいこと
それに気付くたびに忘れてしまって
きみには悪いことをしました


握った手の中は
何度確認してもからっぽなのに
空っぽじゃないんだ
恥ずかしげもなくミラクルと呼ぶ奇跡を
指先で感じたかったのかもしれない、





わたしは頭が悪いけれど
そうだと言い訳すれば
許されることが世界にはいくつかあるのを
知っているからだろう
自分を自分で認める優しさ
きみはそれを愚かさとよんだ


ゆっくりとこれからをなぞることを
当たり前だと思っているのなら
それは考え直した方がいい
きみの前では単純ではいられなくて
わたしはときどき妙に恥ずかしくなる
でもそういう気持ち
ほんとうは嫌いじゃなかった


飲み干せなかった麦茶が日の光を受ける
きみの髪の色に似ていたよ少しだけ
氷の割れる音を何度聞いて
そのたびに溢れる水分を喉で受け止めたら、





昨日は何かを失った
今日は何かを得て
明日はまた失うだろう
その連続で日々が構成されていることをおれは知ってる

例えば昨日はきみを失って
けれども今日も失って
明日はまた失って
いつかおれはゼロの存在になるのか


ほんとは知っていたんだろ、
セックスを知らない女子たちが口にするセックスという言葉がやけにリアルにひびく理由も、
経度十五度毎に一時間の時間の流れを繰り返す地球の理由も、
忘れたくないことばかりを連ねて書いたメモ用紙をいつも失くしてしまう理由も、
アドレス帳にか行の名前ばかりが増えてゆく理由も、
砂時計は自分で終わりはするけれど始まりはしない理由も、
始まりには終わりがつきものである理由も。

秒針を何度逆向きに回しても
どうせ同じことを繰り返すんだ、
そもそもそんなことをしても
時間は元には戻らないのだし、
それでも戻れたらよかったんだろうね
きみは祈っていたんだろうね





いまだ海になりきれないきみはたった数メートルの世界に手をのばし、いまにもわらってくれそうな睫のカーブでおれを見つめる。


自由詩 nostalgic Copyright 春日 2008-04-26 18:59:32
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