シナモンロ-ル
COCO



君は 必死にボートを漕ぎ進んでいるんだね

でもボートは後ろ向きで前に進むんだ

いつか必ず 大きな船で舵をとるんだよ





あなたはいつも 牙を剥き 鋭い爪で私を威嚇して
その奥にあるガラスの心を必死で守っていたね

その姿は痛々しくて 弱々しくて
憎らしくて 愛おしかったわ

そんなあなたが初めて優しい顔してそんな事を言って

そして私の前から姿を消したのね




ねぇ私は夢を見ていたの?

だってどうしてもあなたの影が見つからないの

あなたの牙の跡も

あなたの体温も

あなたの口唇も

私の身体は何も覚えていないのよ

とっても泣きたいのに 涙も出なくてね
ただ深雪の季節みたい 研ぎ澄まされた冷たい空気が私の身体を包んでいるの





何だか今日は 白色が限りなく白くてね 他には色がなくて それが妙に現実的なの

たまらなくなって 私1人ボ-トに乗ったわ

これがあなたの見た私なのね

だけどしなやかに伸びた木枝にぶつかっちゃって

ボ-トは止まってしまったよ

ため息ひとつ

「あなたが前にいたらこのボ-トは…」

なんて黙って呟けば

私はまるでこの池に浮かぶ悲しみのオブジェ

そのうち鳥たちが頭の上で

優しい歌など歌い出してしまいそうだから

私シナモンロ-ルをかじってみたの

それはそれは美味しくてね

あなたがきれいに型抜きしていった心の穴に埋め込まれていく様よ

一口かじれば

あなたの爪跡

一口かじれば

あなたの感触

一口かじれば

あなたの匂い

私の身体にあなたの影が蘇るの

ほらようやく涙も溢れ出して

深雪の季節のような 研ぎ澄まされた冷たい空気は

新芽の季節のような 太陽香る暖かい空気に変わり私を包んでくれたのよ



だから私 シナモンロ-ルとあなたの影をじっくり
じっくり味わってから

またボ-トを漕ぎ出して

そのまま旅に出たの

いつか大きな船で舵をとるためにね


自由詩 シナモンロ-ル Copyright COCO 2008-04-25 03:08:08
notebook Home 戻る  過去 未来