「花束」
ベンジャミン


生徒からもらった手紙には
「わたし先生がいなくても頑張ってるよ」
って書いてあった

渡り鳥のように教室をめぐる僕は
だからこそ一つ一つの授業を大切にする
うまくいかないこともあるけれど
だからこそ一つ一つの失敗をわすれない

もしも人の心の中に花が咲いているとしたら
たとえばそれが一本のバラのようだったら
うかつに触れてしまったらいけない
花びら一枚めくることもいけない
それくらい傷つきやすいから

花屋さんで花束をたのむとき
僕はいつもカスミソウをそえてもらう
僕はそんなふうで在りたい
それが優しさだとは言いきれないけれど

もしも人の心の中に花が咲いているとしたら
たとえばそれが一つの個性だとしたら
できるだけたくさんの枝を伸ばして
包み込めたらいいと思う

それが一つの花束になって
最後に「ありがとう」と言ってもらえたら
そんなに嬉しいことはない


「わたし先生がいなくても頑張ってるよ」
「でも、いつもどってくるの?」
「また授業みてね」


僕が伸ばした枝先が
まだその生徒を支えているのだとしたら
僕には「ありがとう」と言われる資格はない

返事を書こうと思ったけれど
言葉が詰まって出てこないから
かわりにこうして詩を書いているよ

もしも人の心に花が咲いているとしたら
たとえばそれがその一人の生徒の中で
ぽつんと咲いているとしたら

それが花束になるように
見えない枝を伸ばさなくてはいけない

それが優しさだとは言いきれないけれど
それが僕にできる精一杯なのだと
信じることしかできないけれど

僕は手紙を見つめながら
その小さな花に

この詩を捧げよう


             


自由詩 「花束」 Copyright ベンジャミン 2008-04-24 01:08:43
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