風景に消える心
狩心

傷があるんですと
ナポリタンを体中に塗りたくる
血にもならない やけに薄いオレンジ色で
むしろ夕焼けなんですと
ひき肉やパスタを弾いて
トマトソースの部分だけ残す

ミートソースの間違えでしたと
あなたは言うけれど
あなたの口元からは
コーヒーが零れ出して止まらない 滝のように
段々 体が石へと硬直していくその姿
お地蔵さんにでもなるのかしらと言うけれど
葉っぱが一枚ゆらゆらと
あなたの丸い頭の上に落ちてきた

あなたは涙を流す
誰も言葉を発していない夕焼けで
近所のおばさんがベランダで布団たたきする音と合わせて
胸に響くように
カラスがかぁかぁ言いながら
わたしと平行に進んでいくその距離に

車のヘッドライトが瞼を横切る
それを瞼の裏側で感じている
山の斜面を転がりながら
夜の繁華街に身を任せるのかしら私は

公園で待っている少女に
誰を待っているのと話し掛けると
誰も来ないことを確認してるのと
哲学者のような返答が返って来る

私はコンビニで買ったナポリタンを
その少女に塗りたくった
なにすんだよと 不良少年張りの声を上げて
殴りかかってきたその子を
夕焼けである私は抱き締めた
なぜだか笑い声が聞こえて
少女は消えてしまう

ミートソースの間違えでしたと
あなたは言うけれど
あなたの口元からは
コーヒーが零れ出して止まらない

わたしの為に 山奥に設置された石のお地蔵様は
随分長いこと訪れない内に 沢山の落ち葉に埋もれていた
でも
丸い頭の上にある一枚の葉っぱは
なぜだか緑緑としていて
そこだけ出会った頃のまま
時間が止まっているかのようだった

わたしはお地蔵様とジャンケンをして負ける
身体を交換してわたしがその中に入る
お地蔵様の魂は わたしの体に乗って
スキップしながら斜面を下っていく
そのうしろ姿
誰に会いに行くのだろう
そんなことを思いながら
私はゆっくりと目を閉じる
それでも世界は 瞼の裏側で感じる事が出来る
紅葉の季節が来るまで
わたしが目を開く事は無いだろう

天気予報が晴れだとしても
心の中に雪が降るように
クマのプーさんは深海の底で眠る
完全武装の酸素ボンベで
酸素が足りなくなったらちゃんと
小銭を持って町へ買い出しに行くのだ

清潔な酸素は高価で
小銭じゃ足りないから
自分の肉を切り売りしては
100g48円なんかで売る
ついでに知らない誰かに 膝枕の耳掻きまでしてもらう
あーすっきりしたよかったと思うと
町は海の中に沈む

すいすいと泳ぐ 金槌が電線につかまって
子供の頃のあやとりを思い出す
誰かに真珠のネックレスをプレゼントしたかった
破裂した結婚指輪をまだ持っている
それをしまったはずのポケットには穴が開いている
彼も自立したかったのだ
宇宙の紙くずとして
誰かに鼻をかんでもらうのを楽しみとして

ねじれる身体はドーナッツ
土星から生まれた
今日も幾許かの小さなお玉じゃくし
ひゅんひゅんと飛んでは
夜の繁華街を舞う
クマのプーさんのファンタジー
傷があるんですなんて
誰にも言えそうにない








自由詩 風景に消える心 Copyright 狩心 2008-04-22 13:55:44
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