グッバイベイビー
小川 葉

グッバイベイビー
きみはまだ
そこにいるのかい

トンネルを抜けると
そこは
まだ雨が降らない
東京駅だった

高層ビルが
山のように建っていて
お洒落だった
遠くの景色が霞んで
東京は異様なまでに
どこまでも続いていた

電車に乗り換えて
大森駅で降りた
懐かしい都会が
僕がかつてはじめて
都会と記憶した
小さな都会がそこにあった

トイレに入ると
あの頃の都会の匂いがした
あの頃都会は
どこもかしこも
そんな匂いがしていた気がした
まだここには
古きよき都会、というよりも
街の匂いが残っていたのだ

秋葉原に着くと
平日のせいか
雨のせいか
新しい文化人たちはいなかったので
ラジオの部品が売ってる通路を歩いた
店の人と目が合うたびに
その人の子供の頃の顔を想像していた

東京駅まで
また電車に乗る
秋田に学べ、という見出しの
車内広告があって
どきっとした
どうか学ばないでくださいと
生まれ育った日々を
走馬灯のように思い出し
声に出さずにそう言った

東京駅で
新幹線まで時間があったので
レンガづくりの入口を探した
探しても探しても
見つからなかった
東京駅は
いつだって工事してる
すれ違い様に
人夫さんの顔に覚えがある気がしたけど
その向こうで振り返る
丸ノ内のOLの
視線の行方ばかり気になっていた
新幹線の時間が近づいてきて
ついにレンガは見つからなかった

上野から大宮まで向かう途中
とても悲しい坂道を見つけた
そこが東京か埼玉なのかわからないのに
その洗練された悲しさゆえに
きっと東京だと思っていた

仙台に着いて家に帰ってから
地図で探したけど
坂道は見つからなかった
探しても探しても見つからない
それが東京
なのなもしれなかった

グッバイベイビー
きみはまだ
そこにいるのかい
ベイビー
そこはきっと
東京という街だ
きっと坂道のある
その街だ


自由詩 グッバイベイビー Copyright 小川 葉 2008-04-22 00:31:17
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