埋葬
Utakata
その新月の夜
庭におおきな 深い穴を掘る
足元に大きな布の包みがひとつ置いてある
掘り起こされた土は濡れて
手に持ったスコップが地面を突き刺しては
一塊を持ち上げる湿った音だけが
庭に繰り返す
月がないので いま
夜明けに近づいていくのか
深みへと落ちていくのかが分からない
穴を掘り終わったとき、
おもむろに足元の包みを解く
幼かった頃の自分自身の屍が
眼を薄く開いたままで横たわっている
静かに腕に抱いたあとで
自分自身の掘った穴の中へと静かに下ろす
仰向けになっても
新月の夜空には何も見えない
自分の手で殺したのだ
それを
抵抗したところで
子供の力など高が知れていた
それの息が完全に絶えたあと
月のない庭に出た
何か
墓標のようなものがあるのだと思っていた
そんなものはなかった
最後の土を放りこんでしまうと
あとには なにごともない黒い土だけが残る
なめらかな喪失感
自分の身体の感触を手探りで確かめる
いま 自分の足の下で横たわっているはずの亡骸との
違いは何ひとつない
ように思える
背中の骨がひとつ欠けたような気がするが
生きていくためには何の違いもない
赦しを請うべきなのだろうか
そもそも何の罪を負えというのか
どうしてもそうしなければならなかった
墓石もないので誰一人気付きはしない
生きていくためには何の違いもない
部屋に戻る
暗闇の中でもうひとつの寝息が聞こえる
隣に静かに滑り込む
眼を閉じて
庭に埋まっているはずの
自分自身の小さな背中の骨のことを思う
新月の夜
いま 夜明けが近づいていくのか
夜が深まっていくのかが分からない
自由詩
埋葬
Copyright
Utakata
2008-04-21 03:40:51
縦