睡蓮の池
水町綜助

僕は睡蓮の池の絵に
名前を付けた
夕暮れ
どこかヨーロッパの石畳の町
大きな花屋が一軒あって
歩道に沢山の鉢植えの花をいくつもならべて
ほとんど黄色の花が多いみたいだけれど
どれも金塊を溶かして
のどかな町のしずかな生活の溢れる
歩道に
ブチまけたみたいだ
焼けるように
どれも美しい

目をとじれば
輪郭が痛く緑色にうかぶ

たくさんの人が
鉄のバスに乗り込んだ後
アルミ板をむき出しにして
叩き出したバスのボディは
夕空のグラデーションで走ってくるそしてきっと
鉢植えの花は風と振動に揺れてる
金属のからだは
冷えきって

その絵と僕には
距離があって
それは走り抜けるバスのように
こみあげて
近づいて
僕の髪を持ち上げて
頬を掠めるときには
きっと睡蓮の池として静まっていて
波紋のひとつもたてない
僕はそんなたしかな
間違いを過ごして
何度目か
いま安心しているんだろう
それはもう誰にも
回答されない
だから消えて
消えたから
安心だろ


静かなんだ
池の絵は
ほんとうに
何色も油彩絵の具は厚く
流されて渦を巻くけれど
静かで
それが僕には
夕暮れ花屋の横を走り抜けるバスで
たくさんの人を乗せて
騒がしくて
でもそれは静かな池で




自由詩 睡蓮の池 Copyright 水町綜助 2008-04-17 09:06:49
notebook Home 戻る