涙の波紋 
服部 剛

三十年の間 
一つ屋根の下ですごした 
八十八の祖母が 
悪性腫瘍と知ってから 

街を歩いて目に映る 
すべての人が
やがては空に吸い上げられる 
幻の雫に見える 

曇り空の果てに
翼を広げる 
一羽の鳥  

誰もいないビル群に 
開いたままの 
無数の窓 

今日も僕は 
独りの靴音を響かせ 
輪郭の透けてゆく街を歩く 

家を出る前に 
通り過ぎの配達夫がポストに入れた 
遠くに住む姉からの速達 

封筒から顔を出す 
曾孫ひまごの入学式の写真 

祖母の贈った
空色のランドセルを背負い 
桜の木の下ににっこり立つ

机の上の写真に 
落ちる 
屈んだ祖母の涙 

幻の街を歩きながら 
思い出す僕の
心の鏡にひろがる 

小さい波紋 








自由詩 涙の波紋  Copyright 服部 剛 2008-04-12 22:27:54
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