もへじなひと
恋月 ぴの

へのへのもへじみたいだねと問いかけたら
「へへののもへじ」が正しいんだと
あのひとは言った

―へのへの

叱られて家に帰れなかった
夕焼け空に
ロウセキで描いた
へのへのもへじ
けんけんぱの輪を追憶の黒い影くぐり抜け
とうりゃんせの歌声が
わたしの背中を呼んでいた

―へへのの

困ったような「へ」の字のまゆげ
それでも「へへのの」にこめられた頑なな思いは
まるで道化の素顔を垣間見たようで
しれっとした眼差しに
愛だけでは幸せになれぬと「へ」の字くち


へのへのもへのとも言うらしいけど
「通り抜けできません」と標された
人生の袋小路で捨て猫一匹みゃぁあと鳴いて

おままごとしていた、あの頃がよぎる

それは空っぽの部屋に
空っぽのふたり
お互いを傷つけ合うことでしか満たされ得なかった
忘れようとして忘れることのできない日々

へのへのもへじのげじげじまゆげ

カンけりのカン思いっきり蹴られても
わたしは案山子と素知らぬ顔で






自由詩 もへじなひと Copyright 恋月 ぴの 2008-04-11 21:24:12
notebook Home 戻る