創書日和「神」
虹村 凌

神様を信じない俺が好きな女は仏教徒で
少し鳩胸の変な女だった

その女は金色のマルボロを吸っていて
根元まで吸わずに半分くらいで消してしまう女だった
その女は勢いでメイド服を買って
可愛いと言われて服を脱いでしまうような女だった
その女は洗いたての髪にキスをすると
本気で怒ってそっぽを向くような女だった

その女は少し鳩胸の変な女だった

その女は新宿の薄暗い喫茶店の真ん中の席で
暖かいコーヒーとトーストを千切りながら食べていた
指を拭くものが無いと言うので
少しよれたハンカチを出すと
格好悪いねと言って少し笑った
女は煙草を分けてくれと言って
セブンスターを一本抜き取ると
香水の匂いのするジッポで火をつけた

ふわり と広がる

その女は一通り話をし終えると
もうお前に話す事なんて無いと言って
屈託無く笑った
少し鳩胸のその変な女は
母親の誕生日に鼻を買って帰るんだと
鼻屋を幾つか見て帰ったけれど
結局は欲しい鼻が見つからずに
小さなその鳩胸を少しだけ膨らませて
不満そうな顔をして帰っていった

その女は少し鳩胸の変な女だった

その女は新しい彼氏が出来た時も
その彼氏と関係が危うくなった時も
ゴキブリ以上に変な虫が出た時も
いつも俺に電話をしてくる変な女だった

その女はついこの前
俺の目の前で鳩になると言って
この窓を破って出て行ったきり
帰ってきていない
この鼻をあげたら帰ってきてくれるかと
神様じゃない悪い奴に
契約を持ちかけようと思ったけれど
俺もその窓から出て行こうか迷ったまま
じっとしている


自由詩 創書日和「神」 Copyright 虹村 凌 2008-04-10 13:52:39
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